ま え が き

 

 

 二一世紀も数年を経ましたが、時代の扉はなかなか開きません。世は、混迷の度をますます深めているように思われます。このようなときにあたり、会員の皆様お一人おひとりにスペキュラになっていただきたいと考えます。スペキュラとは、物の本によれば、古代ローマにおいて、帝国が戦略的に重要な地点に建てた見張り塔のことであります。投機家とか投機的リスクは、そのスペキュラの語に由来するそうであります。

 皆様に依頼したいことは、リスクマネジメントの世界で、皆様それぞれにスペキュラになっていただいて、われわれ総体として、早期警戒システムになりたい、と冀うからであります。時代の流れ、風潮、そのなかで顕在化している、あるいは潜在的なリスクを、世に先駆けて捕捉し、明確化し、その対応策を提示していきたい、と考えます。

 昨年度は、学会として白鴎大学にて開催された全国大会統一論題「企業の巨大化とリスクマネジメント」、また、「航空リスクマネジメント」をはじめとして、幾つかの課題に取り組みました。その成果が、本書であります。

 2001911日の同時多発テロは、グローバリゼーションの流れをリナショナリゼーションに引き戻すかにみえた出来事でありました。この出来事と2つの統一論題は、深く関連しております。今年度も、本学会にふさわしいテーマでの活発な議論が既に幾つかなされました。その一部も、本書に収録されています。

 日本リスクマネジメント学会にとって、本年は記念すべき年であります。JARMSホームページにてご案内のように、学会は25周年を迎えます。四分の一世紀にわたり、日本はいうに及ばず、世界的に革新的な理論を、亀井利明・会長(名誉理事長)を中心にしてわれわれは発信してきたのであります。

 リスクマネジメントとは、保険の上手な入り方だ、との理解が世界の常識であるなかで、純粋リスクだけでなく、投機的リスクもふくめて、否むしろ投機的リスクを正面に据えて、日本独自のリスクマネジメント理論を築いてまいりました。このような学会の基本的な方向は、1990年代後半以降のグローバル競争、eビジネスの時代にあって、その正しさが、世界的な理論や実践の動向のなかで、実証されつつあります。

 また、われわれの学会は、企業だけでなく、家庭や行政、またNPOなどのリスクマネジメントも研究の対象とするものであり、そのユニークネスは、誇るに足るものであります。

ここに、25年の歴史を振り返るとともに、今後とも社会のニーズや課題に対し、学会の研究活動が、それに的確に応え、かつときには理論的にリードしていくものでありたい、と願っております。

 なお、私は、第26回全国大会において、理事長に選出されました。もとより、浅学菲才であることはよく承知しております。皆様のご支援を心からお願い申し上げる次第であります。

 

2003年 新春

理事長 吉 川 吉 衞